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正解を一つ出すことと、辿れる順序を組み立てることは別の仕事だ。
正解を一つ出すことと、辿れる順序を組み立てることは、別の仕事だ。
「何をすればいいか」を答えることはできても、「あなたがこの状況で、この制約の中で、今日から動けるか」を答えることは別の問いだ。前者は知識の問題で、後者は経路の問題だ。
経路には条件がある。辿れること。実行できない計画は、経路とは呼ばない。
血糖管理をしていると、これが毎日の問題になる。何を食べるかではなく、何をどの順で、いつ、どれだけ食べるか。そしてそれが自分の身体でどう機能するか。同じ食事でも、前後の行動が違えば結果が変わる。正解は一つではなく、自分に合った経路がある。
たとえば「炭水化物は控えめに」という答えは、たぶん正しい。けれど、朝に会議が三つ続く日と、午後に体を動かす日とでは、同じ答えがまったく違う意味を持つ。控えめにした結果、午後に低血糖になって仕事にならないなら、その答えは正しくても辿れない。答えが間違っているのではなく、答えと自分のあいだに、道が引かれていないのだ。
知識は、多くの場合すでに足りている。調べれば出てくるし、聞けば教えてもらえる。足りないのは、その知識を今日の自分の一日に置き直す作業のほうだ。何を先にして、何を後にするか。どこで様子を見て、どこで引き返すか。その順序を組み立てるところで、人は立ち止まる。
答えは、たいてい一枚の紙に書ける。経路は書けない。経路は、いまどこにいるかによって始まりが変わるからだ。同じ目的地に向かうにしても、出発する場所が違えば、最初の一歩はまるで違うものになる。
だから、経路を引くときに最初にやるのは、答えを考えることではない。いまいる場所を確かめることだ。何が手元にあって、何が動かせないのか。どれくらいの時間があって、どれくらいの余力があるのか。条件を並べてみると、選べる道は思っていたより少なく、そのぶん一つひとつの道がはっきり見えてくる。
制約は、ふつうは邪魔なものとして扱われる。予算が足りない、時間がない、身体が思うように動かない。けれど経路を引く側から見ると、制約は地図のようなものだ。通れない場所がわかって、はじめて通れる場所がわかる。何の制約もない場所には、道も引けない。
これは身体の話に限らない。会社で新しいことを始めるときも、同じことが起きる。「AIを入れるべきだ」という答えは、どの会社でもだいたい正しい。けれど、どの業務から、誰が、どの順で使い始めるのかが決まらないまま、答えだけが会議の議事録に残っていく。答えは出ているのに、誰も動けない。それは経路がないからだ。
経路には、途中で確かめる場所が要る。一度引いた道が、最後まで正しいとは限らない。歩いてみて、思っていたのと違えば引き直す。そのためには、道のどこで何を確かめるのかを、最初から決めておく必要がある。確かめる場所のない計画は、途中で間違いに気づけない。
血糖管理でいえば、食べたあとに数値を見るのが、確かめる場所にあたる。見て、思っていたより高ければ、次の食事の順序を変える。低ければ、動く前に少し足す。その繰り返しが、少しずつ自分の経路を形づくっていく。一回で正解にたどり着く必要はない。確かめながら、引き直せればいい。
もう一つ、経路には、誰かが通ったあとが残るという性質がある。同じような条件を持った人が、どの順で、何を試して、どうなったか。その記録は、次に同じ場所に立つ人にとって、何よりの手がかりになる。ここで配るべきなのは「こうしなさい」という処方ではなく、「この条件で、この順序で、こうなった」という相関のほうだ。
処方は、受け取った人の条件を問わない。相関は、条件ごと手渡される。自分と似た条件の記録を見つけた人は、それをそのまま真似るのではなく、自分の条件に合わせて読み替えることができる。道は一つではない。けれど、誰かが通った道は、次の人が自分の道を引くときの目印になる。
では、こうした経路づくりを、AIに任せればいいのかというと、そう単純でもない。AIは答えを出すのが得意だ。条件を読み取って、それらしい道を示すこともできる。けれど、その道が本当に辿れるのかを確かめるのは、使う人自身だ。だから、AIに何をさせるかと同じくらい、何をさせないかを決めておく必要がある。
私たちがつくっているプロダクトでは、献立を読み取って分解するところまでをAIに任せ、その結果にどう点をつけるかはルールのままにしている。なぜその結果になったのかを、使う人があとから説明できるようにしておきたかったからだ。経路は、本人が納得して歩けるものでなければ意味がない。
設計する、というのはそういうことだと思っている。正解を探すのではなく、その人が辿れる順序を組み立てること。いまいる場所から始めて、途中で確かめて、必要なら引き直せる道をつくること。そして、その道を通った記録を、次の人に手渡せるようにしておくこと。
答えを出すことは、これからもっと簡単になっていく。そのぶん、答えと人のあいだに道を引く仕事は、これまで以上に大事になるはずだ。私たちが Path Engine と呼んでいるものは、その仕事のための道具だ。条件を並べて、順序をつくり、実際に歩けるかたちにして手渡す。答えではなく、経路を返すための仕組みとして。